皆さんは「バイアス」というものをご存知でしょうか?
心理学や統計学などでバイアスについて触れたことがある人もいれば、なかなか聴き慣れない人もいらっしゃることでしょう。
よく「バイアスがかかる」なんて使い方がされています。
バイアスとは、簡単に言えば「偏った考えや見方」のことを意味します。
実はこのバイアスですが、仕事選びをする上で知らないと確実に損をします。
人生で多くの時間を捧げる仕事。転職をしたはいいものの、
「思っていた仕事や環境と違う」「転職しなければよかった」「前職の方が良かった」
こんな後悔は誰しもしたくないはずですし、失敗をする前に対策をすることが望ましいですよね。
そこで本記事では、仕事選びで起こりうる意思決定のバイアスを3つ紹介し、バイアスを回避するポイントについても解説していきます。
もしご自身の中で思い当たるものがあればしっかりチェックすることをおすすめします。
仕事選びで後悔しないために、バイアスについてしっかり理解していきましょう!
☑️ この記事を書いている人
1 利用可能性ヒューリスティック
ここで一つ質問です。
「新卒3年以内に転職している人の割合はどれくらいでしょうか?」
この質問の答えを知っている方であれば容易に答えられるでしょうが、もし正確な答えを知らない場合、多くの人は
「自分の周りでどれくらいの人が転職しているか」
「第二新卒と書かれた求人をよく見かけるから多いのではないか」
という具合に、自分の記憶から質問に関する体験や経験、見聞きしたことを思い出して考え、正解を判断したのではないでしょうか。
実はこの思考のプロセスのなかに「バイアス」を生じさせる要素が潜んでいるのです。
2002年にノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者のダニエル・カーネマン氏によると
利用可能性ヒューリスティクは、他の判断のヒューリスティクスと同じく、訊ねられた質問を別の質問に置き換える。あるカテゴリーのサイズやある事象の頻度を見積もるべきときに、その例が頭に思い浮かぶたやすさを答えているのである。しかし、このような置き換えをすれば、系統的なエラーにつながることは避けられない。
引用:『ファスト&スロー 上』ダニエル・カーネマン著 村井章子訳 早川書房(2012)
つまり、
人は何かの確率や頻度など、ある物事を判断する際、その出来事の「思い出しやすさ」に基づいて判断を下す方法をとることがよくあり、それが利用可能性ヒューリスティックなのです。
注意すべきは
思い出しやすい記憶(容易に入手できる情報) = 正しい情報 とは必ずしも言えない
ということです。
記憶した内容が様々な原因に影響されて改変されたり、一部しか覚えていなかったりすることはよくあることです。
恋人との楽しい会話などでさえ全てを鮮明に記憶することは不可能ですし、自分の都合の良いように記憶を作るなんてことも自然と行っているのです。
しかし、往々にして記憶を改変したり一部しか記憶していないという事実に本人すらほとんど気づけていないため、誤った判断をしてしまうことにつながってしまうのです。
「利用可能性」から見る、仕事選びの失敗例
EX)
「好きを仕事にする」
「好きを仕事に」ってフレーズをSNSやWEB広告でよく目にする。インフルエンサー も好きなことを仕事にした方がいいって言っているし、感覚的にも好きなことを仕事にできるなら悪い気がしない。よし、好きなことを仕事にしよう。
これはよくある仕事選びの方法の一つだと思います。
「好きを仕事にする」というのはあまり悪いイメージがないと思いますが、実は注意点がいくつか存在します。
・好きを仕事にする = 幸福度が高い とは必ずしも言えない
・SNSやネット、インフルエンサー などの発信をそのまま受け取って、かつ自分の直感頼りで意思決定してしまっている
好きでかつその仕事が得意であれば天職とも言えるでしょう。直感的にも受け入れやすいですね。
しかし、現実にはなかなか好きな仕事が同時に得意であることは多くはないはずです。
また、好きであるがゆえに
・仕事が上手くいかなくなった
・やりたくない仕事が多くて気が進まない
など、現実とのギャップによって「こんなはずではなかった」と悩んでしまうことが問題となります。周りと比較をして自分の能力について自信を無くしてしまうと自己肯定感も下がってしまいます。
あくまでも仕事に対する価値観ですのでそのことに良い悪いは全くありません。
とは言え、安易に好きなことを仕事にした方が良いと考えることには、慎重になるべきでしょう。
意思決定のバイアスの怖いところは、本人がバイアスに陥っている事実に気づいていないというところにあります。
以下にバイアスを回避するポイントをまとめてありますのでチェックしてみてください。
回避するポイント
・直感任せで意思決定しない
・「自分は今バイアスに陥っていないか?」と自問する癖をつける
・メディアの情報や誰かの発言をそのまま鵜呑みにしない
・仕事選びなどの重要な判断を行う時は論理的に考えるなど、時間をとって慎重に検討する
・受け入れやすい情報=正しい情報 とは限らない
・気分が落ち着かない時に大事な意思決定をしない
2 確証バイアス
あなたの身近な人に「自分の都合の良い情報ばかりを集めて反対意見を聞き入れない」ような人はいるでしょうか。
その人はもしかしたら「確証バイアス」に陥っているかもしれません。
確証バイアスとは、
認知的な偏りから起こるバイアスの一つでいったん自分の立場や態度、考えを決めるとそれ以降自分の都合の良い情報ばかりを収集して、逆に都合の悪い情報は聞き入れないようにし、情報を都合よく解釈することです。
確証バイアスの状態に陥ると以下のような偏りが起きてしまいます。
・偏った情報ばかり収集してしまう
・都合の悪い情報はシャットダウンしてしまう
・反対意見や情報を検証しようとしなくなる etc...
「確証バイアス」から見る、仕事探しの失敗例
EX)
「一度良いと信じ込んだ仕事」以外の仕事を考えない
ある職業が自分に適した職業であると一度信じ込むと、それ以降その職業のメリットや自分にとって都合の良い情報(いかに良い職業であるか、いかに自分に適しているか)ばかりを収集して、その職業のデメリットや本当に自分に適しているのかなどのマイナス面を軽視してしまう。
特に初めての就職や転職をする時に「自分の都合の良い情報ばかり収集」しがちです。
もし教員を仕事にしたいと考えた場合、一度教員になると決めればあとはいかに教員が素晴らしく魅力的な仕事か、そして自分にとっていかに適している仕事か、集めた情報によって自分の意見を正当化していきます。
確証バイアスを助長しやすい要因の一つに「現代の情報検索の仕組み」も大きく関わっています。
先の教員の例だと検索エンジンで検索する時に
「教員 魅力」 「教員 向いている人」 「教員 なり方」
このように検索する人が多いと思いますが、ここでの検索結果としてどのようなサイトが上位に上がっているかと言えば、その多くが「教員になること」を後押しするような内容になっているはずです。
教員になりたいけどどんな魅力があるのか知りたい
どんな人が教員に向いているか知りたい
教員にはどうやってなれば良いのか知りたい
それもそのはずで、検索エンジンは検索する人の検索意図(ここでは教員になることを後押しする)をみたすようなサイトを上位に表示しています。その結果
「自分にとって都合の良い情報ばかり」を収集して、その情報によってさらに自分の態度や立場、考えが強固なものになっていくのです。
もちろんメリットばかりではなくデメリットについて記載しているサイトは多くあります。しかし、確証バイアスで注意すべきは「メリットを過大評価し、デメリットを軽視してしまう」ことです。
自分にとって都合の悪い情報は「そういう意見もあるよね。」ぐらいで軽視しがちなのです。
自分の人生にも大きく関わる仕事探しで確証バイアスに陥ってしまうと、「自分には天職だと確証を持って転職したけど、思っていた仕事とは全然違うものだった」という状況になりかねませんので、慎重な検討と注意が必要です。
以下にバイアスを回避するポイントをまとめてありますのでチェックしてみてください。
回避するポイント
・デメリットもしっかり検討する
・本当にこの職業で良いのかを自問する
・確証バイアスに陥っていないか冷静になって考えてみる
・自分の意見に対し意図的に反対意見を出してみる
3 現状維持バイアス
あなたの周りにこんな人はいないでしょうか。
・転職したいといいながら何年もしない人
・仕事やめたいといいながら辞めていない人
・副業を始めると言って全然始めない人
このような人はまさに現状維持バイアスに陥っていると言えます。
現状維持バイアスとは、現状を変えたいと望みながら、現状からの変化によって起こりうる損失を避けようと結局現状維持に固執してしまうことです。
転職をしようと考える理由は人それぞれですが、共通しているのは「転職することで現状を良くしたい」という思いでしょう。
しかし一方で転職には必ずリスクも伴います。
・採用時の条件と実際の仕事内容が違った
・給料が想定していたよりも低かった
・職場の人間関係が合わない
・自分の適性とミスマッチしている etc...
今すぐ転職しなければいけない差し迫った状況ではないなら
「今の会社に不満はあれど今のままで良いか」と現状維持に落ち着いてしまうことはあるあるです。
リスクを犯すぐらいであれば現状の安定を望むという心理(損失を回避)は遺伝子レベルでも組み込まれているのです。
また、人は同じ額の損失と利得があった時は、「損失」により重きをおく傾向があります。
行動経済学者のダニエル・カーネマンによれば
損失回避は、二つの動機の相対的な強さを表すと言うこともできる。すなわち、利得を手に入れようという動機よりも、損失を避けようとする動機のほうが強いのである。
引用:『ファスト&スロー 下』ダニエル・カーネマン著 村井章子訳 早川書房(2012)
損失回避性が働くといつまでたっても変化しない、すなわち転職をしないという現状維持傾向が強まっていくのです。
損失を回避するには現状維持が妥当(=行動しない)であるとの判断が支持されるからです。
「現状維持バイアス」から見る、仕事探しの失敗例
EX)
公務員から民間への転職をなかなか決められない
公務員は一般的に安定していると言われるため、現状に不満があったとしてもリスクを犯してまで民間への転職をしようとせず、現状維持に固執してしまう傾向がある。また、公務員が民間企業への転職を成功させることは一般的にハードルが高い場合が多いため損失回避になりがち。
いわゆる「安定」と世間で言われる公務員や大企業の社員などには特に現状維持バイアスが働きやすいと考えられます。その理由は以下のとおりです。
・現状に不満があっても「安定」に引きづられて現状維持になってしまう
・待遇、福利厚生面で恵まれているので転職のリスクがより大きく見える
・特に公務員の場合民間への転職の難易度が現状維持の傾向を強める要因の一つとなっている
現状維持バイアス自体を完全になくすことは難しいですが、人間には損失回避性があるということを知るだけでも大きな一歩と言えます。
転職活動などの仕事探しをする際にこの現状維持バイアスは避けられないですが、必要以上にバイアスが働いているならばしっかりと回避することが重要となります。
以下にバイアスを回避するポイントをまとめてありますのでチェックしてみてください。
回避するポイント
・現状維持バイアスに陥っていないか自問する
・不確実な事柄を一つずつ明確にして透明化していく
・損失を最大限減らせるように現状と変化したらどうなるかの状況をしっかり分析する
・現状を変えたいなら行動するしかない
・行動をしない理由ばかりを見つけない
まとめ
今回の記事では仕事選びにおいて知らないと確実に損をするバイアスについて3つ取り上げ、それぞれのバイアスの回避ポイントを紹介しました。
<仕事選びで起こる3つの主なバイアス>
利用可能性ヒューリスティック
確証バイアス
現状維持バイアス
転職活動は人生において節目を変える重要なターニングポイントとなり得ます。
そんな転職活動で失敗しないようにしっかりバイアスの存在を認識して、充実したキャリアをつくり上げていきましょう!
就職や転職活動にあたり、自分自身のキャリアについてもっと深く考えていきたいという方はこちらの記事が参考になると思います。
>> 就職・転職で失敗する前に|これだけは知っておくべきキャリアの話【まとめ5つ】
記事執筆にあたり下記の書籍がとても参考となりましたので興味のある方はぜひ読んでみてください。
『ファスト&スロー 上・下』ダニエル・カーネマン著 村井章子訳 早川書房
『行動経済学 経済は「感情」で動いている』友野典男著 光文社新書
『科学的な適職』鈴木祐著 クロスメディア・パブリッシング